以上な博士の希望 プロローグ

いつもと変わらない平和な空だ。

頂点に達するにつれて深みを増していく青空、ちぎられた綿のように白い雲、そんな空の天頂に鎮座し、燦然とした輝きを地に降らせている太陽。

まったく平和そのものといった蒼穹の足元には今日も飽きずに日常のサイクルを繰り返している街の、慌ただしさと退屈さを同居させた風景が広がっている。

二十一世紀も半ばを過ぎたこの時代でも、二十一世紀の初頭と比べて然したる進歩も発展もない先進国の典型的な姿だった。

 

しかしそんな日常の姿を一変させる存在が、空の片隅を走っている。

 

その輝く姿は、昼には見えるはずもない流星のように見えた。

しかし奇異な点は別にある。その流星がまぎれもなく、徐々に大きくなっているという点だ。

落下してきているのだ。だから地上から見たその輝きは次第に大きく膨れ上がって、存在をあらわにしていく。

その流星は望遠でかすんでいるために姿かたちが明瞭ではないとはいえ、巨大な人の姿をしたもののように見える。

物体は一路、町の一画、とある都立高校へ向かって落下のコースをとっていた。

高校の教室からは、落下してくる物体が見えていた。

この流星によって運命を大きく変えられるこの少年も、二年一組教室の窓から見上げた空に走る流星の姿を、その目で捉えていた。