異常な博士の希望 一章 義の心 ②

「まったく、ひどいことになってしまったな。まさか学校などという場所に墜落してしまうとはな」

その男は、もっとも適切な一言で表現するならば「変人」だった。

小さく丸い眼鏡をかけ、やせ型の褐色の肌にちらほらと生える無精ヒゲ、端正な顔立ちの頭頂から無造作に伸び散らかった、脱色でもしたのか銀色に近い白色の長い髪。ところどころが煤けて汚れている白衣の下には、どういうつもりか柔道着を着用している。そして痛くないのか、裸足だ。

「……機体がここにある何かに引き付けられて、操縦が効かなかったのよ。不幸な事故としか言えないわ」

もう一人は全身黒で統一したスーツの、男と同じく外国人らしき女性だった。

美しい顔立ちだ。高い鼻に長いまつげ、奥目がちな瞳は青く、ショートの黒髪は光を映して艶やかだ。しかしその表情には一貫して暗いものが取り付いていた。冷静沈着というよりも、いつでも沈鬱を表情にまとわりつかせて、悲しみに呪われている……という印象を受ける女性だった。

「そこの女性、この教室の担任教師と見受けるが、死者は出なかったか?」

変人男が聞くと、担任は「え、ええ。幸いに……」と答えながら、盾の右手をしっかりと掴んで後ろへ守るように引き寄せた。

すると黒スーツの女性は半ば呆れた様子で言う。

「……忘れたの? コペルニクス。この方とは一度会っているじゃない。この学校からジャスティムスの適合者を選定する時に」

コペルニクスと呼ばれた変人男はとぼけた表情をして、

「そうだったかな。それは失礼をした。しかしね、あなたはどうにも没個性的なのでね」

失礼を謝っておきながら、しれっと新しく失礼を働くこのコペルニクスという男に担任教師は特に気を荒立てる様子は見せず、しかし抗議の念を露わにしてきっぱりという。

「本当にすまない。しかしこれは、不慮の事故なのだ。我々の意思で行ったことではない。それに悪いが……今はそれどころではないのだ」

コペルニクスは物体の縁に手をかけて、大穴のふちから空を見上げた。

「我々はこの機体……ジャスティムスを空中輸送中に敵の攻撃に会い、敵の猛烈な攻撃の末に墜落し、運悪くこの学校に墜落してしまったというわけだと了解してくれ」

コペルニクスは空を見上げたまま、その物体をぺちぺちと叩いてそう説明した。

「おそらく敵は、我々の撃墜を確認するためにここへやってくるだろう。一応、味方を呼び出してはいるが……この状況は、なんとかしなければいけないのだよ」

コペルニクスが振り返って担任に視線を送ると、彼女は状況を理解したのか、少しおびえた様子で口をつぐんだ。