初めまして 今更、ブログをはじめてみました

初めまして SNOWsanta と申します。

この度、今更ながらブログをはじめてみることにしました。

 

きっかけは、趣味で書いていた小説が数本たまって、なんかこのまま捨てておくのももったいないな~と思ったからです。

基本的には自作小説を載せていくことになりますが、いわゆる「雑記ブログ」のような記事も書いていきたいと思っています。

小説載せるんならホームページのほうがいいとも思ったのですが、やり方がいまいち分からず、ブログで載せることにしました。

 

雑記の内容は最近見たアニメや映画の感想、ゲーム音楽についてなどのサブカルチャー方向に偏っていくと思います。

あとアニメ遊戯王が大好で(特に5Ds)、デュエルリンクスも長く続けているので、私の考えたデッキの公開等もしていけたらと思います。

 

それでは、足を運んでくださったあなたに感謝をおくりつつ、

以降、投稿される記事に一瞥でも向けてくれたらな、と思います。

異常な博士の希望 一章 義の心 ⑤

ジャスティムスの中は一面が灰色で、球形のコックピットの壁面には等間隔でモニターのつなぎ目らしい格子模様が張り巡らされている。地面にあたる部分は平面の円型で、盾はその中心にぽつねんと立たされていた。

「君を正式にジャスティムスのパイロットとして登録するために、君の体にナノマシンを注入しなければならないが、いいな?」

密閉されたコックピットの中に、コペルニクスの声が響く。

「なのましん、ですか?」

「同意を求めておいて悪いが、時間がない。詳しい話は後でいくらでもする」

「わ、わかりました。じゃあ、お願いします」

「ちょっと痛いぞ」

言うが早いか、コックピットの頂点部分から棒状の怪しげな装置が動き出し、その先端のアームが盾の首につかみかかった。盾がなにか言葉を発するよりも早く、アームに内蔵されている注射針が盾の皮膚に突き刺さり、ナノマシンを注入した。盾が痛みを訴える暇も与えないほどの迅速さで、事は終わってくれたようだ。

ナノマシンの注入を終えると、アームは頂点部分へと格納されていった。

「……よし、これでパイロット登録は完了した。さあジュン・キドウ、ジャスティムスを起動させよ!」

「ど、どうやれってんです? 起動の仕方なんて……」

「分かるはずだ。君の脳にまで生き渡ったナノマシンに保存されてある情報が、君にそれを教えてくれている!」

「……! はい、今、わかりました!」

それは夢の最中から目覚めるように無意識のやり方で、盾自身はどうやったのか正確には認知することができていなかった。ともあれジャスティムスは起動し、コックピットの壁面が光を灯し、一斉に外部の映像が映し出されていった。

ジャスティムスは重たげな挙動で機体を校舎から起き上がらせて、その二本の足でしっかりと立ち上がる。ここにきてようやく、衝突して教室を半壊させたのはこの人型の背中にあたる部分だと見知ることができ、見る者にその全貌を明らかにさせた。

その出で立ちはまさしく中世の騎士が着込む甲冑のように鋭利で洗練されている。フルフェイスを想起させる頭部には一本角が天に向かって伸び、胸には巨大な五角錐形の装甲、直方体の肩アーマーから延びる腕は長く、その肘には廃熱口らしきスリットを有したでっぱりがある。

全体が片刃の剣のような形状の脚部には小さく、しかし必要十分な足が地に立ち、足首の部分には別にジョイントがあって、そこからはさらに長大な刀剣を模したパーツが斜め上に伸び上がっている。盾はそれが、剣の形をしたスタビライザーなのだと理解している。

細くしなやかでいて、力強く雄々しい。まさしく剣のようなフォルムは正義を顕すモニュメントとなって、今、悪なるビーバッサ・デスネスを断ち切らんとして臨戦の構えをとる。

今まさにジャスティムスをデスネスのもとへと飛翔させんとしたその時になって、盾は自らが置かれている状況に気が付いた。

「う、浮いてるっ……!」

盾は今、コックピットの中空に文字通り浮遊していた。そのことに盾がすぐさま気が付けなかったのは、ちゃんと地面の感触を感じられていたからだ。今もコックピットの中空であるのに、足の裏には自身の体重を支えてくれる力の存在を感じられている。

驚く盾に仕方なく、コペルニクスが口をはさむ。

「ジュン、ナノマシンによる理解が遅れているようだから簡潔に説明する。ジャスティムスをはじめとしたヴィーラ・マキナはエーテル・エネルギーと呼ばれるエネルギーで動いている。これは人の感情、思惟から発する粒子を特別なやり方でエネルギーに転じたものだ」

「人の感情が、エネルギーに?」

「そうだ。ジャスティムスは君から発したエーテル粒子を増幅し、エネルギーとして起動し、フレキシブル性の高いエーテル・エネルギーの斥力を利用して君は今コックピットの中で浮かび、行ってみれば君はジャスティムスと一心同体の関係になっている」

「この機体と一心同体……」

ジャスティムスは君の一挙手一投足を完璧に投影して動く。私は君の力は知っているつもりだ。さあ行くんだ! 戦いの中で理解を進ませるしかない状況だ!」

「は、はいっ!」

盾はジャスティムスを、空中戦を続けているデスネスとモラリニティへ向けて飛び立たせた。初めて空を飛んだ鳥が以降は飛び方を忘れることがないように、ジャスティムスはまっすぐにデスネスと、満身創痍のモラリニティのもとへと迫っていく。

「……なんだか下でごちゃごちゃやっているようだがね、これでお終いさ。モラリニティの!」

デスネスがとどめの一撃をモラリニティへと振り下ろす。デスネスの攻撃による衝撃で損傷したモラリニティのコックピットの中で傷だらけのスズは眼をつむって無念を思い、大した戦いができなかったことを心の中で誰ともなく謝っていた。

「させないっ!」

デスネスのギロチン・ブレードがモラリニティの額に接触しようという刹那に、間に合った。ジャスティムスはその拳をデスネスの右手に打ち付けて、彼女の機体を跳ね飛ばしていた。機体のあちこちに痛々しい切り傷を彫られているモラリニティの前に立ちふさがり、ジャスティムスは何か、武道の型のような構えをとる。

ジャスティムス……! だ、誰? 乗っているのは……!」

「スズさん、でしたね? 僕は頼りないかもしれないけど……助けに来たんです!」

面食らった表情のスズにそう答えながら、盾は(この構えはなんだ……? 僕はこんなの、知らない筈なのに)と疑問に思ってもいた。

「おやおや……ナイトの登場というわけかい。しかしねぇ、アンタ、ジャスティムスに乗るのも初めてなんだろうにっ!」

激昂したオーメンはデスネスにギロチン・ブレードを両手で持たせて、武器も何も持たず無防備にしか見えないジャスティムスへと突貫する。

ジャスティムスは微動だにしない。デスネスは今度こそ獲物を仕留めんと嬉々としてブレードを振り下ろす。スズは目前でジャスティムスが切り落とされようというこの状況に、悲鳴を上げた。

しかしデスネスは、ジャスティムスの側面を通り過ぎていた。血気にはやる攻撃が拙く、外れてしまったのか? 

そうではなかった。しかしオーメンもスズも、盾自身ですら、何が起きたのかを理解できていなかった。

「な、なんだっ? どうなったって……!」

困惑を隠すこともできないままにオーメンは再びジャスティムスへと振り返り、切りかかる。

今度は三人の目に、いったい何が起こっているのかを視覚することができた。ジャスティムスは、デスネスの攻撃を受け流して躱していたのだ。攻撃の支点と力点、そして作用点を完全に熟知しなければ成せないと思える目にもとまらぬ流麗さで、盾はその「技」を行っていた。

「こ、こんなの、僕がやれる筈ない……! こんなの覚えてないのにっ!」

デスネスの攻撃は一向に直撃する気配がない。彼女の機体のいかなる攻撃ですら、ジャスティムスは「技」と見える動きによって受け流している。盾はこの状況に困惑するしかない。彼自身こんな技など知らないし、思い出せもしないのだ。しかし彼の体は脊髄反射的にデスネスの攻撃に対応する四肢の動きを顕していた。

盾の頭が思い出せなくても、彼の体に刻まれた記憶は消えていなかったのだ。

「どういう……! なんだってんだ、アンタは……!」

喚くオーメンをよそに、ジャスティムスはカウンターとして裏拳をデスネスの腹部へと直撃させていた。しかし、威力が弱い。恐れ惑いながら戦っている盾の拳には、勢いと威力が宿っていない。

「こ、攻撃! 攻撃をしないと……! で、でも攻撃なんてどうやるんだっ?」

受け流す防御の形ばかりを思い出す自身の体に苛立ちと焦りを覚えていても、彼の肉体は何も答えてはくれない。いまだにデスネスの攻撃の機先をそらしているだけで申し分程度のカウンターしか繰り出せず、デスネスの機体に満足なダメージを与えられているとは見えなかった。

そんな状況に、コペルニクスは焦れた。

「あれではいずれ疲弊してしまうぞ……! こうなれば、一転集中でエネルギーをデスネスにぶつけて、奴を撃退するしか手はあるまい……そのためには!」

コペルニクスは教室の穴の淵から天を仰いで、ジャスティムスとモラリニティに向かって言い放った。

「ジュン、スズ! 二人のエーテル・エネルギー・ビームを重ね合わせて、デスネスにぶつけるのだ!」

戦闘の真っただ中で、盾は悲鳴をあげるように、

「エネルギー・ビームをっ? 初めてなのに、できるっていうんですか!」

「初めてだから、これぐらいしか有効な策が立てられんのだ。エネルギー・ビームは撃てるな?」

「……やってみます!」

言うが早いかジャスティムスはデスネスを足の裏で蹴り、押し飛ばして、モラリニティのそばへと飛んだ。状況を理解していたスズのモラリニティは、すでに胸の前で祈るように手を組み合わせて、ビームの射出体勢をとっている。

ジャスティムスは拳を目の前に突き出して合わせ、水平になるように横に寝かせて指を開き、静かに腰を落としていく。

(エネルギー・ビーム……こういうことか。意識を指の先々に滲ませるよう集中して……放つ!)

奇跡的にか、それともスズの息を合わせる技術の高さか、ビームを打ち放つタイミングがぴったりと一致していた。モラリニティからは薄緑色の光の奔流が、ジャスティムスからは鮮やかな真紅の光の渦が、吹き溢れていた。

放たれたビームは空中で重なり合って干渉し、増幅させながら、空間に膨大な熱と光のエネルギーを散逸させつつもデスネスへと向かっていく。

「な、何っ……! これが、エーテル・エネルギーの力かっ……!」

オーメンの声が巨大な光の激流の中に飲まれて、悲鳴へと化していった。エーテル・エネルギー・ビームを吸収するデスネス自慢のアブソープション・マントもこのエネルギーを吸収しきれずに吹き飛ばされ、デスネスは自身の両腕を眼前に交差して防御するほかになかった。

しかし、これでもデスネスを消滅させるのには至らなかったらしい。エネルギーの半分以上をマントに吸収されていたため、デスネスの機体はその両腕をもぎ取られる損傷を受けたとはいえ、コックピットのある胸部は健在で、二本の鉄柱のような脚部、そして白い布で覆われた禿頭もまた無事だった。

それでも、この損傷ではもう継戦はできない。その上、オーメンは恐怖していた。

初めて乗ったパイロットを有するジャスティムスと、戦闘タイプではないモラリニティが力を合わせてこのように強力なエネルギーをぶつけてきたのだ。彼女はいわばエーテル・エネルギーの可塑性、そして「可能性」に恐怖をしていたのだ。

「ッ……クソォッ……私は恐れているんじゃないっ! 勘違いしてもらっちゃ困るんだよッ! お前たちが強いからじゃない、二対一だから、撤退するだけさ……!」

幼稚な強がりを捨て台詞にして、デスネスはその場から逃げていった。自衛隊がその初動に走る間もなく、状況は収束していった。

「なんとか、逃げてくれたか……危なかった。あの状況で、あのオーメン・ポライトが気を違えて『あれ』を発動するような行動に出ていれば、我々は……」

コペルニクスがつぶやくと、モラリニティは力尽きて浮遊の姿勢を崩し、墜落しそうになっていた。咄嗟にジャスティムスが受け止めていなければ、校舎と教師、生徒たちにさらなる被害が及んでいたことだろう。

異常な博士の希望 一章 義の心 ④

盾は一瞬、このコペルニクスという男が何を言っているのか意味がまったく理解できなかった。

それで彼は「な、なんて言ったんです」と聞き返していた。

コペルニクスはしゃがんで目線を盾に合わせて、

「このジャスティムスに乗って、あのデスネスと戦ってくれと言ったのだ。ジュン・キドウ」

その言葉の意味を理解した盾は、このジャスティムスなる物体が戦いをする機械なのだと理解し、それでも解らないといった表情でうつむき、

「な、なんです……意味が解らないですよっ! どうして僕が、こんなものに乗って戦うなんてこと……!」

不安と緊張、そして恐怖に震える悲痛な声音だった。

「君はこのジャスティムスで戦えるからだ。君はジャスティムスと、適合者リストの中で最もよく適合していた人間なのだよ?」

「わからないです……僕、操縦なんてできません!」

「できる。操縦ていっても、複雑な操作は一切ないのだ。それとも、恐ろしいと言うのか?」

「当たり前ですよっ! 僕、戦いなんて……」

「私からもお願いよ、ジュン。あのままでは確実に、モラリニティはデスネスに切り落とされる。パイロットだって、死んでしまうわ……」

視線を劣勢のモラリニティへと流して、ザビーネは続ける。

「スズがやられてしまったら、次は私たちなのよ。君はあのデスネスのパイロット、オーメンのことを何も知らないからなのかもしれないけど、彼女は殺戮者よ。関係のない人たちだって平気で殺すわ。だから私とコペルニクスだけじゃない。君とここの生徒たち、ひいてはこの街の人々も危険にさらされるの。……デスネスを撃退できなければ」

そこでザビーネは額に手をついてため息をもらし、

「ごめんなさい。勝手よね。情けない大人よね。巻き込んでおいて、吐くセリフじゃないわ。でもあなたはこのジャスティムスで戦える。みんなを救うことのできる人間なのよ……」

コペルニクスはうつむく盾の手をとり、

「このジャスティムスをはじめとした、ヴィーラ・マキナと呼ばれるロボットたちは特殊でね。人間の感情、心に反応して搭乗者を選定する性質を持っているのだ。ロボット側が求めている感情や心を持った人間だけが、そのパイロットになれるということだな。そしてジャスティムスが求める感情、心とは……」

コペルニクスは盾の胸をやさしく小突く。

「義の心、公正の心、仁の心だ。君はそれを強く持っているから、ジャスティムスと最もよく適合したのだろう」

コペルニクスはうつむく盾の姿を見つめながら言った。

「私は、君の義の心、公正の心、仁の心を信じたい」

盾はうつむけていた顔を上げて、今も目前の中空で一方的に痛めつけられているモラリニティ、ひいてはそのパイロット・スズのことを想った。

(あのスズという子……怖くても、自分がやられたら皆が危険にさらされるということを解って、怖くったって戦っているのか)

そして、あのモラリニティがやられてしまった後のことを考える。

(あのスズという子がやられてしまったら、みんなが殺されてしまうかもしれない……一方的に。でも僕は、それを止めることができるかも、しれない。)

盾は振り返って、後ろで縮こまっている担任教師や、離れて見守るような生徒たちの姿を一人一人ながめていく。それぞれが複雑な面持ちで盾の姿を見つめていた。

(僕は今、不安定だ……いろんなことが思い出せないし、わからない。でも一つだけ確かなことは)

盾の内奥で徐々に決意と覚悟が固まっていく。

(いま僕は、やれる。……戦うことのできる人間らしいってことだ)

盾は再び振り返って、コペルニクスの褐色の顔にこう言った。

「……乗ります。僕にこのジャスティムスで、戦わせてください!」

コペルニクスは鷹揚に微笑んでうなずき、

「……決心を、ありがとう。さあ時間がない。ジャスティムスへのパイロット登録をせねば。ザビーネ、手伝ってくれ!.」

異常な博士の希望 一章 義の心 ③

どうやらこの物体の名前はジャスティムスといい、何か、敵に狙われうる秘密を有しているらしい。縮んでいる担任教師の横でそう予想をした盾は、

ジャスティムスというのは、なんですか。適合者って……?」

「ん? 君は……」

コペルニクスは盾の顔を見るや彼に近づき、盾よりも頭ふたつぶん高い目で、見定めるように彼を眺め回した。すると黒スーツの女性も盾になにか思うところがあるのか、彼のもとへと歩み寄ってくる。

威圧を感じて萎縮する盾の「な、なんですか?」という声も置いて、

「ザビーネ、この子は、そうじゃないのか?」コペルニクスは確認をとる。

「そうね、この子……適合者リストの最上位に位置していた子ね。名前は確か」

ザビーネと呼ばれた黒スーツの女性は盾の顔を確認するとうなずいて、

「ジュン・キドウだったはずだな、少年?」

意味の分からない言葉の羅列に混乱する盾は、とっさに「そ、そうなんですか?」と返してしまった。コペルニクスが首をひねって「どういうことかな?」と口にした瞬間、教室の空洞から覗く外、ちょうど校庭のど真ん中にコペルニクスたちの言う「敵」が降り立った。

その姿は全高10メートルほどの、巨大な人型のロボットだった。禿頭のような楕円形の頭部には赤く光る双眼がついており、口元は白い布のようなもので隠されている。

上半身にはショートマントを思わせる三角形の装甲版が装着されていて、そこから延びる腕は野太く、右手には不吉で凶悪な輝きを照り返らせている、ギロチンを模したブレードが握られている。

円柱型の両足も、まるで鋼鉄をそのまま円柱の形に鋳造したかのような重厚さがある。

処刑人だ。この機体の姿かたちはまさしく、ギロチンで罪人の首を切り落とす処刑人の容姿そのものだった。

そんな凶悪そのものといった容貌の威圧に、盾は恐れてあとじさってしまう。その機体はギロチン・ブレードをジャスティムスなる人型の物体に差し向けて、

コペルニクス、ザビーネ……情けないねぇ。ロクに操縦もできないヴィーラ・マキナの中で、この私の刃にかかって死ぬんだよ、アンタ達はっ!」

女の声がそういった。どうやらこの機体のパイロットらしい。声の質感から、若くはないと察せる。三十代半ばといったところだろうか。

「まずいな、奴め……もう来たというのか。ザビーネ! 味方機は!」

コペルニクスが急いでジャスティムスなる物体の中に入ると、コペルニクスに代わって額に手を当てながら西側の空を見上げていたザビーネは、

「来たわ。……モラリニティよ」

ザビーネの視界の先、ちょうどジャスティムスが墜落してきた方角の中空から、さらにもう一つの機影が飛来するのが確認できる。どうやらそれが、モラリニティなる友軍の機体らしい。

その姿は同じく人型ロボットだったが、お世辞にも戦うために造られた機体には見えない。その姿はまるで聖職者のような容貌なのだ。

頭部には聖職者の円帽子を模した装甲が特徴を示し、胴体部分も神父のクロークを彷彿とさせる出で立ちで、腹部には黄金色の十字架が輝きを放っている。

その手には武装の類はなにも持たず、まったくの空手に見えた。

「モラリニティ? スズ・キムラか。戦闘タイプではないだろう。どうして彼女が来たのだ?」

コペルニクスジャスティムスの中で何やら作業をしながら、ザビーネに問いかける。

「とぼけないで頂戴。日本支部に常駐している機体が、私のとスズのしかないからでしょう。私はここに居るから、彼女が来るしかなかったのよ」

「中国支部からの出動を期待していたのだ。緊急性を鑑みれば仕方ないが、彼女では奴……ビーバッサ・デスネスには太刀打ちできまいな。自衛隊には悪いが、ヴィーラ・マキナ相手では彼らに期待できるものではない」

モラリニティなる機体は処刑人の風貌をした機体、ビーバッサ・デスネスの眼前に着陸し、ちょうどジャスティムスと校舎を背にして、全高7メートルほどの体躯が両者をかばう形で両腕を左右に広げた。

「やらせはしません。オーメン・ポライト。私にだって盾になるぐらいのことはできます」

モラリニティから儚げな少女の声が発した。まだ十六歳ぐらいの幼く、そして透き通るような声だった。スズというパイロットの少女だろう。

「戯れないでもらいたいねぇ。アンタなんかが、このデスネスのギロチンとまともに戦えるものかよっ!」

オーメンと呼ばれたパイロットの昂る口調とともにギロチン・ブレードが振り上げられ、躊躇の一息もつかない容赦のなさでモラリニティの脳天めがけて振り下ろされた。

モラリニティはとっさに両腕を眼前で交差させて、デスネスの右手首を受け止める形で間一髪、ギロチンの刃の直撃を回避していた。

エーテル・エネルギー・ビームッ!」

モラリニティも防御をしたままで黙ってはいない。スズという少女がそう声を発すると、機体の腹部にある十字架の中心に埋め込まれてある水晶体がまばゆい輝きを放ち、若葉のような淡い緑色の光の奔流が噴き出した。

デスネスは避けられるはずもなく、体いっぱいにそのビームの直撃を受けて、空中へと弾き飛ばされていた。

しかしそのビームの直撃を受けていても、デスネスの機体には傷一つ見えない。あっけにとられて見ていた盾の目には、あのショートマントの装甲がビームの光を吸収しているように見えていた。

「貧弱なビームだこと。アンタのビームなんざ、このデスネスのアブソープション・マントに吸われて終わるだけの、あえないものだってことさ!」

オーメンの嘲笑を受けたスズはその結果を予期していたのか、特に動揺するような素振りを見せずにモラリニティを飛翔させて、デスネスを追撃する。デスネスもすぐさまモラリニティを迎え撃つ体勢をとり、空中でデスネスが一方的に優勢な接近戦が展開された。

「デスネスの注意を我々からそらすために、あえて不利でも接近戦をかけることで、デスネスを空中にくぎ付けにしようという魂胆……健気な。しかしあれではもつまい。モラリニティが両断されるのも時間の問題だな……!」

どうやって状況を見ているのか、ジャスティムスの中で依然として作業中のコペルニクスがそうつぶやいた。

「なんとかして私の機体をここに持ってこられないの? コペルニクス

ザビーネが焦りの混じる口調で言うが、コペルニクスはかぶりを振って、

「君の機体は今オーバーホール中だろう。たとえ持ってきたって、ロクに戦えんな」

「……そうよね」

「それよりも今はこのジャスティムスだ……なんとか使えるようにせねばな」

コペルニクスが答えた瞬間、空中から金属同士がぶつかる鈍い音が響き渡った。ついにギロチンの刃がモラリニティのボディをとらえ、その清廉な容姿に傷をつけたのだ。

幸いなことに四肢は健在だったが、左胸に深い切り傷が穿たれていた。

スズの悲鳴が空間に響いた。その悲鳴は恐怖でいっぱいだった。それでもスズは浮かんでくる涙を振り払い、モラリニティの体勢を立て直して、再びデスネスに挑みかかる。

「……よし、終わったぞ。ジュン・キドウ、来てくれ!」

やっとのことで作業を終えたらしいコペルニクスジャスティムスから出ると、盾を呼び寄せてその双肩に手を置いた。

そして緊迫をこめて、こう言った。

「君が……このジャスティムスに乗って、あのデスネスと戦ってくれ。頼む」

 

異常な博士の希望 一章 義の心 ②

「まったく、ひどいことになってしまったな。まさか学校などという場所に墜落してしまうとはな」

その男は、もっとも適切な一言で表現するならば「変人」だった。

小さく丸い眼鏡をかけ、やせ型の褐色の肌にちらほらと生える無精ヒゲ、端正な顔立ちの頭頂から無造作に伸び散らかった、脱色でもしたのか銀色に近い白色の長い髪。ところどころが煤けて汚れている白衣の下には、どういうつもりか柔道着を着用している。そして痛くないのか、裸足だ。

「……機体がここにある何かに引き付けられて、操縦が効かなかったのよ。不幸な事故としか言えないわ」

もう一人は全身黒で統一したスーツの、男と同じく外国人らしき女性だった。

美しい顔立ちだ。高い鼻に長いまつげ、奥目がちな瞳は青く、ショートの黒髪は光を映して艶やかだ。しかしその表情には一貫して暗いものが取り付いていた。冷静沈着というよりも、いつでも沈鬱を表情にまとわりつかせて、悲しみに呪われている……という印象を受ける女性だった。

「そこの女性、この教室の担任教師と見受けるが、死者は出なかったか?」

変人男が聞くと、担任は「え、ええ。幸いに……」と答えながら、盾の右手をしっかりと掴んで後ろへ守るように引き寄せた。

すると黒スーツの女性は半ば呆れた様子で言う。

「……忘れたの? コペルニクス。この方とは一度会っているじゃない。この学校からジャスティムスの適合者を選定する時に」

コペルニクスと呼ばれた変人男はとぼけた表情をして、

「そうだったかな。それは失礼をした。しかしね、あなたはどうにも没個性的なのでね」

失礼を謝っておきながら、しれっと新しく失礼を働くこのコペルニクスという男に担任教師は特に気を荒立てる様子は見せず、しかし抗議の念を露わにしてきっぱりという。

「本当にすまない。しかしこれは、不慮の事故なのだ。我々の意思で行ったことではない。それに悪いが……今はそれどころではないのだ」

コペルニクスは物体の縁に手をかけて、大穴のふちから空を見上げた。

「我々はこの機体……ジャスティムスを空中輸送中に敵の攻撃に会い、敵の猛烈な攻撃の末に墜落し、運悪くこの学校に墜落してしまったというわけだと了解してくれ」

コペルニクスは空を見上げたまま、その物体をぺちぺちと叩いてそう説明した。

「おそらく敵は、我々の撃墜を確認するためにここへやってくるだろう。一応、味方を呼び出してはいるが……この状況は、なんとかしなければいけないのだよ」

コペルニクスが振り返って担任に視線を送ると、彼女は状況を理解したのか、少しおびえた様子で口をつぐんだ。

異常な博士の希望 一章 義の心 ①

少年はまだ意識のはっきりとしないまま、目を覚ました。

かすかに頭痛の残る頭を手で押さえながら半身を起こすと、状況を一変してしまった教室の様子が一望できた。

まったく惨憺たる有様だ。平和そのものだった教室は半壊し、床には砕けたガラス片やコンクリートの破片、机や椅子などが滅茶苦茶に散らばり、その床にも天井にも窓側を起点とした放射状の亀裂が入っており、教室全体が今にも階下へと崩れ落ちてしまいそうだ。

教室の廊下側には生徒たちと教師が避難をして、当然ながら中には怪我をした者もいた。なんとも幸運なことに、死者はいなかったものとみえる。瓦礫の下にも上にも、倒れている生徒の姿は見えなかった。

そして教室の西側、窓があった面には巨大な穴が出来上がり、その中央には穴をつくった張本人が不動のさまで鎮座し、金属でできた表面に鈍い光沢を放たせている。

徐々に意識が明瞭になってきた少年は立ち上がり、その物体を見据える。そしてその目に焼き付いた映像を思い起こす。

(こいつが……教室にぶつかってきたんだ)

その巨大な人型の物体が教室に衝突する寸前までの映像を思い起こすと、少年はふと気が付いた。

僕は、この物体が衝突する前は、何をしていたんだっけ?

どうして僕は、ここにいるんだ?

ここはいったい、どういう場所なんだ?

僕はいったい、誰だったっけ?

なだれ込む疑問の数々に不安を起こした少年は今一度、半壊した教室を見渡してみる。

(どうして……見覚えがないんだ。僕はここに居たんだぞ。わからない場所にこうして居たはずはない。なんで……)

自分の記憶が行方不明になっているという現状を把握してきている少年の視界に、担任らしき女性教師の姿が入り込んだ。

「盾くんっ、早くそれから離れて、こっちに来なさい! 何が起こるかわからないのよ!」

自分に向かって呼び掛けているのだとわかり、(そうか、僕の名前はジュンっていうんだ)と納得をすると、彼は担任のほうへは行かず、どういうことか物体のほうへと振り向いていた。

自分の名を呼び続けている担任の声を背にして、少年・盾は静かに物体のほうへと歩み寄っていた。

なぜ自分がこんなことをしているのか全く分からない。分からないが、自分がその物体に強く引き付けられているような。招き寄せられているような感覚を感じていたのだ。

担任教師が無理矢理にも連れ戻そうと盾のもとに駆け寄り、右手を掴みかけたその時、美しい光沢を放つその物体の表面に動きがあった。

まるでエレベーターのドアのような挙動で物体の中央がスライドして解放され、中から二人の人影が出現したのだ。

以上な博士の希望 プロローグ

いつもと変わらない平和な空だ。

頂点に達するにつれて深みを増していく青空、ちぎられた綿のように白い雲、そんな空の天頂に鎮座し、燦然とした輝きを地に降らせている太陽。

まったく平和そのものといった蒼穹の足元には今日も飽きずに日常のサイクルを繰り返している街の、慌ただしさと退屈さを同居させた風景が広がっている。

二十一世紀も半ばを過ぎたこの時代でも、二十一世紀の初頭と比べて然したる進歩も発展もない先進国の典型的な姿だった。

 

しかしそんな日常の姿を一変させる存在が、空の片隅を走っている。

 

その輝く姿は、昼には見えるはずもない流星のように見えた。

しかし奇異な点は別にある。その流星がまぎれもなく、徐々に大きくなっているという点だ。

落下してきているのだ。だから地上から見たその輝きは次第に大きく膨れ上がって、存在をあらわにしていく。

その流星は望遠でかすんでいるために姿かたちが明瞭ではないとはいえ、巨大な人の姿をしたもののように見える。

物体は一路、町の一画、とある都立高校へ向かって落下のコースをとっていた。

高校の教室からは、落下してくる物体が見えていた。

この流星によって運命を大きく変えられるこの少年も、二年一組教室の窓から見上げた空に走る流星の姿を、その目で捉えていた。

異常な博士の希望 初めに

この小説は、私が二作目に書いた小説です。

一作目は紙(原稿用紙)に書いていたので現存せず、大まかな話しか覚えていなかったので、二作目から載せていくことにしました。

ジャンルは近未来ロボットものです。というか私の書くもののほとんどにロボットが出てきます。完全に趣味です。

 

改めて読み返してみると、冒頭部分から「?」とるような表現が多く、文章も稚拙で、なんとも言えない気分になりました。

 

ただ、今書いている作品に比べると、なんとなく熱意みたいなものは感じられました。

一人でも多くの方の目に触れて、楽しんでいただけたらと思います。

「あ、もういいや」と思った方は、あふれ出る罵詈雑言を胸にしまって、そっ閉じ推奨です。

 

ちなみに元が縦書きの文章を、むりやり横書きに直すので、読みづらい部分があると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 

それでは次回記事より「異常な博士の希望」を掲載していきます。